更新日:2023.01.16リハビリ介護保険適用のリフォームではどんなことができる?福祉住環境コーディネーターが解説
介護認定を受けている人が自宅のリフォームをする場合、介護保険制度で支給限度基準額(20万円)の9割相当額が支給されます。
この記事では、介護保険を有効活用して、高齢者が暮らしやすい住環境にするための「お得な情報」について分かりやすく解説します。
介護保険を利用した住宅改修とは
ここでは介護保険を利用した住宅改修の対象や内容について解説します。
バリアフリーリフォームを行うことで介護しやすい住宅を実現
近年では少子・高齢化社会が進み、「介護」はどの家庭にも起こり得る課題です。
年齢が上がるほど要介護認定者の割合が高まり、80~84歳では26.4%、85歳以上では59.8%となっています。*1 平成28年には内閣府が「どこでどのような介護を受けたいか」というアンケートを実施しました。
その結果、男女ともに「家族に依存せずに生活ができるような介護サービスがあれば自宅で介護を受けたい」と回答した人の割合が最も多く占めています。
「自宅で介護を受けたい」は全体の7割を超え、多くの人ができれば住み慣れた自宅で暮らし続けていたいという思いを持っていることが分かりました。
高齢者が安全・快適に日常生活を送るために、バリアフリーの必要性はますます高まっており、 介護保険を利用したリフォームが注目されています。 図1)内閣府「第2節 高齢期の暮らしの動向(2)」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2018/html/zenbun/s1_2_2.html
対象は「要介護認定」を受けて在宅で生活している人
介護保険を利用したリフォームは、高齢者ならば誰でも適用されるわけではありません。 「要介護認定(要支援1・2、要介護1以上)」を受けて在宅で生活している人が対象となります。 利用者が実際に住んでいて、利用者の被保険者証の住所と同一である住宅であることが要件の一つです。 そのため、利用者が病院に入院中、あるいは施設に入居中である場合は原則利用できません。
支給限度基準額は20万円
介護保険を利用してリフォームする場合の支給限度基準額は、原則利用者1人につき同一の住宅で20万円です。 要支援・要介護のレベルは問いません。 利用できる回数は原則1人1回です。 1回のリフォームで支給限度額の20万円を使い切らなかった場合は、利用者の状態の変化に合わせて数回に分けて利用することも可能です。*2 また、要介護状態が著しく重くなった場合の例外として、再度20万円を限度としてリフォームすることもできます。 この例外は、同じ利用者について1回のみ適用され、 3段階以上支援度や介護度が上がることが要件です。 なお、初回のリフォームをした際に、支給限度額の残額があっても追加分とはなりません。 通常通りの限度額である20万円となります。*3
支給方法は「償還払い」と「受領委任払い」のいずれかを選択
支給方法には「償還払い」と「受領委任払い」があります。 「償還払い」は利用者が費用の全額をいったん支払う方法です。リフォーム後、市に申請をすることにより、上限額の9割~7割が支給されます。 「受領委任払い」は利用者がリフォームでかかった費用の1割~3割の支払いのみを負担する方法です。 利用者の一時的な負担を軽減することができます。 こちらの方法では、自治体に「受領委任払取扱事業所」として登録してある業者の中から選ぶ必要があります。*4
介護保険を利用してできるリフォームの種類
介護保険を利用してリフォームをする場合は、家の中ならばどんな場所でも使えるわけではありません。 ケアマネジャーが利用者の身体状況や介護状況を考慮したうえで、「住宅改修が必要な場所」であることが要件です。 ここでは、介護保険を利用してできるリフォームの種類について解説します。
手すりの取付け
介護保険を利用したリフォームでよくみられるのが手すりの取付けです。 対象となる場所は、廊下、トイレ、浴室、玄関、玄関からの道路までの通路などが挙げられます。 必要以上に取り付けるのは給付の対象外となり、 両側に手すりをつける場合などは、必要性が高いかどうかで判断されます。 手すりの必要性の範囲は利用者の身体状況に応じて考慮され、日常生活を送るうえで必要であることが要件です。 なお、手すりの老朽化による取替えは対象とはなりません。 手すりの太さや材質などが利用者の身体状況に合わなければ、変更することが可能です。
段差の解消
高齢者が家の中でケガをする原因の一つが「転倒」です。 段差のある部分につまづくなどして骨折することがあるため、家の中をフラットな状態にすることが望まれます。 対象となる場所は、居室、廊下、トイレ、浴室、玄関等の床の段差及び玄関から道路までの通路等の段差または傾斜を解消するリフォームです。 浴室の床の段差解消に伴う給排水工事、 居室の窓からのスロープ設置(利用者の身体状況に応じて必要かつ固定した場合) などが給付対象となります。
滑りの防止及び移動の円滑化等のための床または通路面の材料の変更
高齢者が家の中で安全に移動できるように、 床を滑りにくく移動しやすい状態にリフォームすることが可能です。 居室においては畳からフローリング・ビニール系床材への変更や、 浴室の床材を滑りにくい材質のものへ変えることが挙げられます。 玄関アプローチをコンクリートにするのも給付対象です。 老朽化による床のリフォームは認められません。
引き戸等への扉の取替え
車いすを使用する場合、ある程度間口は広くとらなければなりません。 そのため、介護保険を利用してリフォームする場合、引き戸等への扉の取替えも対象となります。 具体的には開き戸を引き戸、折戸、アコーディオンカーテン等に取り替えるといった扉全体の取替え工事をすることが可能です。 扉の撤去やドアノブの変更等も含まれます。*5 既にある引き戸が重いため利用者が使いにくい場合の引き戸交換も対象です。
洋式便器等への便器の取替え
和式便器を洋式便器に取り替えたり、 既存の便器の位置や向きを変更したりするリフォームも介護保険の給付対象となります。 対象とならない工事は洋式便器から暖房・洗浄機能付洋式便器への変更や、 非水洗式から水洗式に変更する場合の給排水設備工事の部分などです。 和式便器の上に置く便座は、福祉用具で請求します。
その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
厚生労働省では住宅改修に付帯して必要となるリフォームとして、以下の例を挙げています。 付帯工事は最低限必要な部分のみ利用できます。 出典)厚生労働省「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4381&dataType=1&pageNo=1
介護保険による住宅改修の手続きの流れ
介護保険を利用してリフォームする際には、工事着工前に自治体に申請することが必要です。 ここでは、介護保険による住宅改修の手続きの流れについて解説します。
リフォームについてケアマネジャー等に相談
最初にすることは、利用者からケアマネジャーに介護リフォームについて相談することです。 工事を行う場所について利用者に実際に動いてもらい、身体状況や生活動線を確認します。 ケアマネジャーは「なぜその工事を行うのか、どうしてその工事が必要なのか」を記した理由書を作成します。 なお、理由書の作成は福祉住環境コーディネーター2級以上の有資格者も行えます。
工事業者の選定と見積もり依頼
工事する場所や内容が決まり、理由書を作成したら工事業者を選びます。 見積もりを取る際は複数社に依頼して市場価格を確かめましょう。 償還払いの場合は自分の好きな業者を選べますが、 受領委任払いの場合は市役所に登録してある業者しか使えません。
着工前に市区町村へ事前申請
介護保険を利用してリフォームする場合には、着工前に市区町村の窓口へ事前申請することが必要です。 提出された書類を確認して、介護保険を支給するのに適切な工事内容かを判断します。 事前申請をせずにリフォームをした場合は支給されないので注意しましょう。
市区町村から確認済通知書を発送
提出書類に問題がなければ、利用者宛てに「介護保険居宅介護(介護予防)住宅改修承認通知書」が発送されます。
工事着工・完成
工事着工は承認通知書が郵送された後に実行してください。 決められた内容通りに工事を完成させます。
市区町村に工事完了の申請
リフォームが終わったら市役所に工事完了の申請をします。 利用者は完了届と領収証等の費用発生の事実が変わる書類を保険者である市区町村に提出します。 保険者は、事前に提出された書類を確認しながら工事内容を精査し、 必要であると認められた場合に住宅改修費を支給します。
現地確認調査
市区町村の職員が工事内容を確認するため自宅を訪問します。 関係者が立会いのもと、申請内容との整合性を確認し、リフォーム内容が適正であるかを調査します。
住宅改修費の支給
現地確認調査で問題がなかったら住宅改修費が支給されます。 受領委任払いは委任された工事業者に支給し、 償還払いは利用者(委任状がある場合は委任された人)に支給します。
介護保険を利用したリフォームの注意点
介護保険制度の住宅改修費を利用したリフォームをする場合は、いくつかの注意点があります。 ここでは、特に押さえておきたい注意点について解説します。
生活の基盤としている住宅のみが助成の対象
介護保険を利用した住宅改修費の支給条件は、生活の基盤としている住宅のみが対象です。
したがって、高齢者施設の入所者や病院に入院中の人、 一時的に身を寄せている住宅の改修工事は対象となりません。
ただし、退院(所)予定が決まっている場合は、住宅改修が可能です。
支給申請は退院(所)後でないと行えず、実現しなかった場合は給付の対象外となります。
現在、高齢者施設や病院にいる人の住宅を介護保険でリフォームする場合は、
償還払いで手続きするのをおすすめします。*6
介護保険で決められた支給対象工事以外は適用されない
要介護者が住んでいる自宅ならば、どんな工事でも介護保険を利用したリフォームができるわけではありません。
老朽化や何らかの要因により破損したものなどは、支給対象外です。
介護保険の住宅改修費を利用する場合は、必ずケアマネジャーなどに相談をし、 事前に計画を練ったうえで工事を行う必要があります。
該当しない場合は改修費が、全額自己負担になるため注意しましょう。
まとめ
近年では長寿化がさらに進んでおり、自宅を終の住処として住み続けたい人は多くいます。
高齢になっても住み慣れた愛着のある我が家で暮らすために、
介護保険制度の住宅改修を利用されてはいかがでしょうか。
参考サイト・参考文献
*1 参考)公益財団法人 生命保険文化センター「介護や支援が必要な人の割合はどれくらい?」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1118.html
*2 参考)甲賀市「介護保険における住宅改修について」
https://www.city.koka.lg.jp/9035.htm
*3 参考)伊賀市「支給限度額について」
https://www.city.iga.lg.jp/cmsfiles/contents/0000000/82/sikyuugenndogakunituite.pdf
*4 参考)那珂市「住宅改修申請の流れ 」P1
https://www.city.naka.lg.jp/data/doc/1544096845_doc_104_2.pdf
*5 参考)厚生労働省「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4381&dataType=1&pageNo=1
*6 参考)越谷市「介護保険の住宅改修について」P9