更新日:2023.01.23リハビリリハビリ難民の原因と現状は?どのような対策で乗り切るべきか看護師が解説
脳卒中や骨折などが起きたあと、身体が思うように動かなくなった場合、リハビリが必要になることがあります。
そのとき、多くの方が医療保険に加入しているので、少ない自己負担額でリハビリを受けることができます。
ところが、ある日を境に「保険が使えません」と言われたら驚くのではないでしょうか。
このように、保険でリハビリが受けられない人を「リハビリ難民」といいます。
もしリハビリ難民になった場合、リハビリを継続することはできないのでしょうか。
もし継続する場合、どのような制度があるのでしょうか。
そこで今回は、リハビリ難民の概要やリハビリ難民にならないためにできること、そして「自費リハビリ」のメリット・デメリットについて解説します。
リハビリ難民とは
リハビリ難民とは、リハビリが必要な状態でリハビリを受けたいと思っているにも関わらず、受けられない人のことをいいます。
リハビリが必要になる状況はさまざまありますが、例えば以下のような病気や事故があります。
- 脳卒中(脳梗塞や脳出血)
- 脊髄損傷
- 交通事故や糖尿病などによる腕、足の切断
- 嚥下機能障害(食べ物や飲み物の飲み込みが悪くなる)
- 肺気腫や肺炎により呼吸がしづらくなる
このように、意外と多くの病気や事故によってリハビリが必要になります。
この中でも、脳卒中は聞いたことがある人が多い病気ではないでしょうか。
実は、介護が必要になる病気の中で脳卒中は多くの割合を占めています。
内閣府のデータを見てみると、65歳以上の要介護者等で介護が必要になった主な原因(総数)は、「認知症」が18.7%で最も多く、次いで「脳血管疾患(脳卒中)」が15.1%でした。(「その他・不明・不詳」を除く)*1
引用)内閣府 「令和2年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_2_2.html
脳卒中の症状や後遺症として腕や足の麻痺が知られていますが、以下のグラフの通り年齢が若くなればなるほど完全自立の割合が多くなります。*2
ただし、何もしなくても完全自立になるというわけではありません。
脳卒中発症直後の早期からリハビリを開始する必要があります。
引用)厚生労働省 「脳卒中に関する留意事項」
リハビリ難民はなぜ生まれるのか
リハビリ難民の原因には、医療制度の問題があります。
医療保険を利用してリハビリが受けられる日数(標準的算定日数)は、病気によってそれぞれ定められています。*3
- 心大血管疾患(狭心症や心筋梗塞など) 150日
- 脳血管疾患等 180日
- 廃用症候群(安静にし過ぎたり、寝たきりの状態が長く続くことによって起こる症状) 120日
- 運動器 150日
- 呼吸器 90日
この標準的算定日数を超えると、医療保険でのリハビリが受けられません。
ただし、例外があります。
標準的算定日数を経過した後もリハビリを継続したい場合は、リハビリによって身体の機能が回復できると医師が判断すれば可能です。
引用)厚生労働省 「令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅲ」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000911811.pdf p31
さらに、「質の高いリハビリテーションを更に推進する観点から、標準的算定日数を超えてリハビリテーションを行う場合に、月に1回以上機能的自立度評価法(FIM)を測定していること」と定められています。*4
つまり、標準的算定日数を超えてリハビリを受けるには、リハビリの必要性を医師が適切に判断し、患者さんの状態を定期的にチェックしていくことが必要となります。
このようになった背景としては、日本の少子高齢化があります。
少子高齢化によって、国民医療費が上がっています。
国民医療費増加の要因には様々ありますが、そのひとつが高齢化です。
全日本病院協会のサイトによると、平成27(2015)年度の国民医療費は42兆3,644億円で、前年度に比べて1兆5,573億円、3.8%増加しました。*5
また、少子高齢化により人口も減っています。
少子高齢化は今後も続く見込みなので、財源はさらに不足することが予想できます。
リハビリ難民にならないために
もし医療保険を使ってリハビリが受けられなくても、リハビリを受ける方法は2つあります。
それは、介護保険を利用してリハビリを受けるか、自費でリハビリを受けることです。
介護保険を利用する場合、要介護認定を受けて要支援や要介護の判定が出れば、1割負担(所得によっては2割や3割負担)でリハビリが受けられます。
ただし、介護保険は誰でも利用できるわけではなく、以下どちらかの被保険者に当てはまる場合のみになります。
- 第一号被保険者:65歳以上の方
- 第二号被保険者:40歳以上で、特定疾病(がんや関節リウマチ、骨折を伴う骨粗しょう症など)がある方
つまり、年齢で見ると39歳以下の方は介護保険を利用できません。
その場合は、利用料を全額自費で負担する「自費リハビリ」を受けることになります。
自費リハビリのメリット・デメリットとは
自費リハビリには、メリットとデメリットがそれぞれあります。
主に考えられるのは、以下の通りです。
(1)メリット
- 制度にしばられることなく自由にリハビリが受けられる
医療保険であるような標準的算定日数がないので、患者さん自身が納得のいくまでリハビリを受けられます。
- リハビリの施設や担当者を自由に決められる
もちろん保険適応の場合も患者さんの意向は尊重されますが、自費リハビリの方がより選択の幅が広がります。
(2)デメリット
- 利用料金が高額になる
保険が適応されず全額自己負担となるため、保険を利用する場合よりも費用が高額になります。
- 医師や理学療法士など専門スタッフの配置が施設ごとに異なる
その施設がどのような職員体制なのか、患者さん一人ひとりが自分で調べて判断しなければなりません。
このような状況から、もし医療保険でリハビリが受けられなくなりそうなときに考えたいポイントは以下の2つです。
「回復」とはどの状態を指すのか、またどの状態を目指してリハビリをするのか共通認識を持つ
先述の脳卒中発症後の回復状況のグラフを見ても分かる通り、いくらリハビリを続けても元通りの生活に戻らない場合もあります。
リハビリを受けて身体の状態が回復したとしても、トイレは誰かに介助してもらう必要があったり、移動は車椅子で行う場合もあるかもしれません。
現在の身体の状況と、リハビリを続けて回復の見込みがあるのか、また回復とはどの状態を指すのか、医師やリハビリのスタッフと十分に話し合い、理解することが大切です。
可能な限り、保険適応でリハビリを受ける方向で考える
もし回復の見込みがあるのであれば、医師に適切なアセスメントをしてもらい、医療保険の適応でリハビリを継続しましょう。
場合によっては、介護保険になる可能性もありますが、どちらも少ない自己負担額でリハビリが受けられます。
費用の負担を抑えることは、経済面ではもちろん精神面での負担を少なくできます。
回復の見込みがない場合は、今の状況を受け止めたうえで、より納得のいくライフスタイルを考え、社会資源を利用していきます。
もちろん、自費リハビリを完全に否定するわけではありません。
しかし、費用やスタッフの面で不安が残るのであれば、できるだけ自費リハビリを選択しなくても済む方法を考えたうえで利用するかを判断しても遅くないでしょう。
まとめ
現在の医療保険ではリハビリが受けられる日数が決まっており、リハビリ難民と呼ばれる方がいるのは事実です。
しかし、全く保険適用がされないわけではないので、医師やスタッフと相談しながら納得のいく方法を検討しましょう。
また、保険適応外になりどうしてもリハビリを継続したい場合は自費リハビリという方法もありますが、利用する場合は費用や職員体制についてよく調べたうえで判断することをおすすめします。
参照サイト
*1
参考)内閣府 「令和2年版高齢社会白書(全体版)2 健康・福祉」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2020/html/zenbun/s1_2_2.html
*2
参考)厚生労働省 「脳卒中に関する留意事項」
*3
参考)厚生労働省 「令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅲ」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000911811.pdf p29
*4
参考)厚生労働省 「令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅲ」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000911811.pdf p31
*5
参考)公益社団法人 全日本病院協会 「医療費の仕組み」
https://www.ajha.or.jp/guide/1.html