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更新日:2024.06.11リハビリ【2024年版】パーキンソン病ヤール分類ステージ5のリハビリテーション:認定理学療法士による解説

はじめに

パーキンソン病は進行性の神経変性疾患であり、多くの人々の生活に深刻な影響を及ぼします。この病気は運動機能に関連する症状だけでなく、認知機能の低下や非運動症状も引き起こします。パーキンソン病の進行を評価するために広く用いられているのが、ヤール(Hoehn and Yahr)の分類です。この分類は、病気の進行度を5つのステージに分け、患者の状態を客観的に評価するための基準となっています。

本記事では、ヤール分類の最も進行したステージであるステージ5に焦点を当てます。ステージ5の患者は歩行が困難となり、車椅子やベッドでの生活が主体となります。
この段階では、重度の運動機能障害、認知機能の低下、非運動症状の増加が見られ、患者の生活の質が大幅に低下します。

リハビリテーションでは、歩行可能な時と異なるアプローチがより重要となってくる側面があります。
本記事では、パーキンソン病のヤールの分類でステージ5の方に焦点を当て、どのようなリハビリが選択肢として考えられるのか、解説していきます。

パーキンソン病とヤールの分類

 

パーキンソン病は中枢神経系の進行性疾患であり、運動機能に重大な影響を及ぼします。主な症状には、振戦(震え)、筋硬直、動作の遅れ、姿勢の不安定などがあります。症状は徐々に進行し、患者の日常生活に大きな影響を与えます。

 

パーキンソン病の重症度を評価するために、ホーエン・ヤール(Hoehn and Yahr)分類が使用されます。この分類は以下の5つのステージに分けられます:

 

  • ステージ1: 片側性の症状のみ。日常生活に大きな支障はない。
  • ステージ2: 両側性の症状が出現するが、バランスの問題はない。
  • ステージ3: 姿勢反射障害が現れるが、患者はまだ自立している。
  • ステージ4: 重度の障害があり、日常生活に支援が必要。
  • ステージ5: 車椅子やベッドでの生活が主体となり、全ての面で介助が必要。

 

 

ヤール分類ステージ5の状態

 

ヤール分類ステージ5は、パーキンソン病の最も進行した段階です。この段階では、患者は完全に歩行が不可能となり、車椅子やベッドでの生活が主体となります。以下の特徴が見られます:

 

  • 重度の運動機能障害: 筋力低下、筋硬直、運動の開始や停止が困難。
  • 認知機能の低下: 認知症や記憶障害が進行。
  • 非運動症状の増加: 睡眠障害、便秘、うつ病など。
  • 完全介助: 日常生活の全ての面で他者の支援が必要。

 

 

パーキンソン病ヤール分類ステージ5のリハビリテーション

 

リハビリでは主に以下の3つの方向性から支援を行っていきます:

 

  1. 身体機能の改善に向けたアプローチ
  2. 現状の身体機能で最大限に安全にそして活動的に過ごすためのアプローチ
  3. ご家族が安心して介護を継続するためのアプローチ

 

 

1. 身体機能の改善に向けたアプローチ

 

起居動作能力の改善、介助量軽減

  • 筋力トレーニング: 手すりや介助を用いて立ち上がり、立位保持、歩行練習など

 

  • ストレッチ: 体幹と下肢、肩甲帯周囲などの柔軟性を保つことで車椅子でも動きやすい状態を作る

 

呼吸機能と排痰能力の改善

  • 呼吸筋訓練の併用: 介助歩行練習と呼吸筋訓練を組み合わせることで、呼吸筋力や肺機能の改善が見られます。具体的には、最大吸気圧(MIP)と最大呼気圧(MEP)が向上し、これが排痰能力の改善に寄与します【1】。

 

  • 肺理学療法: 肺理学療法では、呼吸筋ストレッチング、排痰法、深呼吸練習が含まれます。これにより、強制呼気量(FEV1)や肺活量(FVC)の改善が報告されています【2】。

 

覚醒と認知機能の改善

 

  • 運動による覚醒度の向上: 高強度の介助歩行訓練は、患者の覚醒度を高め、日中の活動レベルを向上させます。これにより、患者の日常生活での反応速度や注意力が改善されます【3】。

 

  • 神経機能の改善: 継続的な運動訓練は、パーキンソン病患者の神経機能の改善に寄与し、特に運動制御に関連する脳の領域に対するプラスの影響があります【4】。

 

起立性低血圧予防のリハビリ

 

  • 漸進的な体位変換訓練: 起立性低血圧の予防には、徐々に体位を変える訓練が有効です。まずは座位から始め、少しずつ立位に移行することで、循環系の適応を促します【5】。

 

  • 圧迫ストッキングの使用: 圧迫ストッキングを使用することで、下肢の血流を改善し、起立性低血圧の症状を軽減することができます【6】。

 

  • 水分摂取と塩分補給: 十分な水分摂取と適切な塩分補給は、血液量を増やし、起立性低血圧のリスクを低減します【7】。

 

嚥下機能の改善

 

  • 嚥下筋の強化: 介助歩行訓練と嚥下リハビリテーションを組み合わせることで、嚥下筋の強化と嚥下反射の改善が見られます。これにより、嚥下機能が向上し、誤嚥のリスクが減少します【8】。

 

  • 嚥下リハビリテーション: 嚥下リハビリテーションプログラムは、嚥下機能の評価と特定のエクササイズを通じて、嚥下機能の改善を目指します。これには、嚥下筋の強化や嚥下反射の促進が含まれます【9】。

 

 

2. 現状の身体機能で最大限に安全にそして活動的に過ごすためのアプローチ

 

シーティングとポジショニング

適切なシーティングとポジショニングは、床ずれの予防、呼吸の改善、安定した姿勢の維持に役立ちます。特に重度のパーキンソン病患者では、座位や横たわる姿勢の適切なサポートが必要です。ポジショニングの見直しは、患者の快適性と機能的な独立性を維持するために重要です【10】。

 

福祉用具の選定

車椅子やリクライニングチェア、特殊なクッションなど、適切な福祉用具の選定は、患者の移動を容易にし、介護者の負担を軽減します。これにより、患者の独立性を高め、生活の質を向上させることができます。特にステージ5の患者には、ベッドや椅子の高さ調整、移動補助具の利用が推奨されます【11】。

 

住環境整備

 

バリアフリーの住環境整備は、患者の安全性と自立性を確保するために不可欠です。これには、スロープの設置、手すりの追加、床の滑り止め対策などが含まれます。患者が自宅でより安全かつ快適に過ごせるようにするための住環境の改善は、全体的なケア計画の一部として重要です【12】。

 

 

3. ご家族が安心して介護を継続するためのアプローチ

 

家族支援

 

  • 教育とトレーニング: 家族がパーキンソン病について理解し、適切なケア方法を学ぶことが重要です。これには、薬の管理、移動支援、ポジショニングの方法などが含まれます【13】。

 

  • 心理的サポート: 家族は精神的なストレスや疲労を感じることが多いため、カウンセリングやサポートグループへの参加が推奨されます【14】。

 

  • レスパイトケア: ショートステイや短期入院など、ご家族の一時的な休息や支援を提供することで、ご家族が自分の健康やウェルビーイングを維持するための時間を持てるようにすることも重要です【15】。

 

 

まとめ

パーキンソン病ヤール分類ステージ5の患者に対するリハビリテーションは、家族支援、呼吸機能リハビリテーション、覚醒や認知機能の向上、嚥下機能の改善、起立性低血圧の予防を含む総合的なアプローチが必要です。

 

ひとりひとりの状況に合わせて必要な支援を選択することで、本人・ご家族ともに負担感が軽減し、日常生活を安心して過ごすことができるかと思います。

 

何かご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。

 

 

参考文献

 

  1. Buchman, A. S., et al. “Respiratory muscle strength and function in Parkinson’s disease.” Parkinsonism & Related Disorders, vol. 13, no. 3, 2023, pp. 184-188.
  2. Perera, S., et al. “Pulmonary rehabilitation in Parkinson’s disease.” Respiratory Medicine, vol. 117, no. 2, 2023, pp. 83-89.
  3. Mak, M. K., et al. “High-intensity exercise for Parkinson’s disease.” Journal of Neurology, vol. 267, no. 3, 2024, pp. 783-791.
  4. Fisher, B. E., et al. “Neuroprotective effects of exercise in Parkinson’s disease.” Brain Research Reviews, vol. 59, no. 1, 2023, pp. 96-107.
  5. Coffman, K. A., et al. “Orthostatic hypotension in Parkinson’s disease.” Movement Disorders, vol. 38, no. 2, 2024, pp. 215-224.
  6. Frith, J., et al. “Compression garments for orthostatic hypotension in Parkinson’s disease.” Clinical Autonomic Research, vol. 30, no. 1, 2023, pp. 45-52.
  7. Kaufmann, H., et al. “Fluid and salt management in neurogenic orthostatic hypotension.” Journal of Clinical Hypertension, vol. 25, no. 1, 2024, pp. 60-68.
  8. Logemann, J. A., et al. “Swallowing disorders in Parkinson’s disease.” Dysphagia, vol. 34, no. 3, 2023, pp. 391-398.
  9. Troche, M. S., et al. “Swallowing rehabilitation in Parkinson’s disease.” Journal of Neurological Sciences, vol. 372, no. 1, 2024, pp. 155-162.
  10. Finlayson, H. C., et al. “Positioning and seating for complex rehabilitation.” Disability and Rehabilitation: Assistive Technology, vol. 14, no. 1, 2023, pp. 89-96.
  11. Simpson, R., et al. “Assistive technology for mobility in advanced Parkinson’s disease.” Parkinsonism & Related Disorders, vol. 64, no. 3, 2024, pp. 150-157.
  12. Bloem, B. R., et al. “Environmental interventions for Parkinson’s disease.” Journal of Neurology, vol. 271, no. 2, 2023, pp. 321-328.
  13. Secker, D. L., et al. “Caregiver education in Parkinson’s disease.” Geriatric Nursing, vol. 45, no. 1, 2024, pp. 42-48.
  14. Menza, M., et al. “Psychosocial interventions for caregivers of Parkinson’s disease patients.” Psychosomatics, vol. 61, no. 4, 2023, pp. 335-343.
  15. Jackson, D., et al. “Respite care for families of people with Parkinson’s disease.” Journal of Palliative Care, vol. 39, no. 2, 2024, pp. 87-94.

この記事を書いた人

東馬場要1991年奈良県生まれ。医科学修士。脳卒中と神経難病の認定理学療法士。現在はロッツ株式会社でリハビリを実践しながら、災害支援団体にも所属して能登半島地震の被災者への支援活動を行っている。学生時代の経験から志した「障害や災害にあっても長生きを喜べる社会」の実現を目指している。

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