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更新日:2024.07.31リハビリ脳卒中のリハビリには質の高い目標設定が9割

脳卒中のリハビリテーションは、患者さんの生活の質を大きく向上させるために不可欠なプロセスです。しかし、そのリハビリが効果を発揮するためには、単なる運動や訓練の積み重ねだけでは不十分です。リハビリの成功の鍵は、質の高い目標設定にあります。目標を明確にし、その達成に向けた計画を立てることで、患者さんの回復が飛躍的に進むのです。


この記事では、脳卒中のリハビリにおける目標設定の重要性について詳しく解説します。SMARTの原則に基づく具体的な目標設定の方法や、目標設定を行わないリハビリの問題点、そして科学的なエビデンスに基づく目標設定の効果について探っていきます。リハビリに取り組む患者さんやそのご家族、そして医療従事者の皆さんにとって、目標設定の大切さを再確認するための一助となれば幸いです。

脳卒中のリハビリでの目標設定とは

 

脳卒中からの回復には、質の高いリハビリテーションが欠かせません。その中でも特に重要なのが、適切な目標設定です。目標設定は、予後予測に基づいて行われるべきであり、SMARTの原則を遵守することが求められます。

 

予後予測とは、病態だけでなく、リハビリによって改善が見込まれること、福祉用具や環境調整によって改善が見込まれることなどを踏まえて、患者本人の可能性を考慮するものです。例えば、脳卒中後に歩行能力を回復するための目標を設定する場合、ただ「歩けるようになる」という曖昧な目標ではなく、「3ヶ月後には杖を使って50メートル歩けるようになる」といった具体的で測定可能な目標を設定することが重要です。

 

SMARTの原則

  • Specific(具体的): 目標は具体的で明確にする。例:「歩けるようになる」ではなく、「杖を使って50メートル歩けるようになる」と設定する。
  • Measurable(測定可能): 目標は測定可能にする。例:「50メートル」という距離を設定し、達成度を評価できるようにする。
  • Achievable(達成可能): 目標は現実的で達成可能にする。例:リハビリの進行状況を考慮して、無理のない範囲で設定する。
  • Relevant(関連性): 目標は患者の生活やニーズに関連するものであること。例:歩行能力の回復が日常生活に大きな影響を与える場合、それに焦点を当てる。
  • Time-bound(期限付き): 目標には期限を設ける。例:「3ヶ月後」という具体的な期間を設定し、進捗を追跡できるようにする。

 

SMARTの原則を守ることで、患者とリハビリテーションチームが共有する明確なゴールが設定され、進捗状況を評価しやすくなります。これにより、患者のモチベーションが向上し、リハビリの効果も最大限に引き出されます。

 

目標設定をしていないリハビリは時間を無駄にしてしまう?

 

訪問リハビリを通じて、多くの脳卒中後の患者さんと接してきた経験から、適切な目標設定の重要性を痛感しています。中には、リハビリのポテンシャルがあるにもかかわらず、それを十分に引き出せていないケースもありました。

 

例えば、ある患者さんは外を歩くことや階段を片脚ずつ登ることができる可能性があったにもかかわらず、そういった練習を一度も行ったことがありませんでした。この場合、適切な目標設定がされていなかったことが原因です。もし私が出会った時に「現状維持」を目標としてしまっていたら、その患者さんは自分のポテンシャルを発揮することなく、リハビリの時間を無駄にしてしまっていたかもしれません。

 

目標設定は、リハビリの方向性を決める重要な指針です。目標がなければ、リハビリの進行状況を評価することも難しく、結果的に患者さんの回復を遅らせることにもなりかねません。適切な目標設定を行うことで、患者さんのリハビリがより効果的で有意義なものになるのです。

 

脳卒中のリハビリにおける目標設定のエビデンス

 

脳卒中のリハビリにおける目標設定の重要性は、数多くの研究で証明されています。例えば、海外の研究*1では、「目標設定は、回復、パフォーマンス、目標達成を改善し、患者のセルフケア能力およびリハビリテーションへの参加に関する認識にプラスの影響を与える」とされています。

 

原文:Goal setting appeared to improve recovery, performance and goal achievement, and positively influenced patients’ perceptions of self-care ability and engagement in rehabilitation.

 

この研究からも分かるように、目標設定は単なる形式的なものではなく、実際のリハビリテーション効果を高めるために欠かせない要素です。目標設定を行うことで、患者さん自身がリハビリに積極的に取り組む意欲を持ち、自分の回復に対する前向きな認識を持つことができます。

 

また、目標設定を通じて、リハビリテーションチームと患者さんが一体となって取り組む姿勢が生まれます。これにより、患者さんがリハビリに対して主体的に関わり、自分の目標達成に向けて努力する姿勢が育まれます。

 

まとめ

 

脳卒中のリハビリには、質の高い目標設定が不可欠です。予後予測に基づき、SMARTの原則を守った具体的で測定可能な目標を設定することで、患者さんのモチベーションを高め、リハビリの効果を最大限に引き出すことができます。適切な目標設定を行うことで、リハビリの進行状況を評価しやすくなり、患者さんの回復を促進することができます。

 

リハビリテーションチームと患者さんが一体となって目標達成に向けて努力することで、患者さんのセルフケア能力やリハビリへの参加意欲も向上します。目標設定は、脳卒中のリハビリにおいて大変重要なので今一度見直してみてはいかがでしょうか。

参考文献

*1:Sugavanam, T., Mead, G., Bulley, C., Donaghy, M., & Wijck, F. (2013). The effects and experiences of goal setting in stroke rehabilitation – a systematic review. Disability and Rehabilitation, 35, 177 – 190. https://doi.org/10.3109/09638288.2012.690501.

この記事を書いた人

東馬場要1991年奈良県生まれ。理学療法士・医学修士。現在はロッツ株式会社でリハビリを実践しながら、健康格差に関する研究、楽しい介護予防を目的とした市民活動団体の設立など活動中。学生時代の経験から志した「健康に格差のない、障害があっても長生きを喜べる社会」の実現を目指している。

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