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更新日:2023.02.16その他高齢者が生きがい就労を実現するための課題と対策

定年退職後、趣味活動などに移行される方も多いですが、
生活にメリハリがなくなりあの頃の活気が減少する方も中にはいます。

そのような方は、あえて就労を考えてみてはいかがでしょうか。

労働と思うと身体に悪い気がしますが、
「生きがい就労」という言葉も出てきているなど、
健康や幸福を得るための手段として就労を選ぶ人もいるようです。

今回は、高齢者が就労で生きがいを得るためのヒントをお伝えいたします。

高齢者の就労が増加している

2010年以降、高齢の就労者は増加しています*1。

 

図1:総務省統計局.高齢就労者数の推移

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1292.html

 

2020年の高齢者全体のの就業率は25.1%となり、9年連続で前年に比べ上昇しています。

 

世代別では、65~69歳の方の49.6%、70歳以上も17.7%が何らかの形で就労しています。

男女別にみると、男性が34.2%、女性が18.0%と、こちらも9年連続で上昇しています。

 

特に65~69歳の男性は2014年に50%を超え、2020年は60.0%が就労しています。

女性も同じように、2014年には65~69歳の30%を超える方が就労しており、2020年は39.9%となっています*1。 (図2)

 

 

図2:総務省統計局.高齢者の就業率の推移

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1292.html

 

このように、特に65歳~69歳の高齢者にとって就労していることは当たり前になりつつあり、これからは「どのように働くか」が重要となり、

より良い働き方として「生きがい就労」が注目されつつあります。

 

 

 

生きがい就労とは

そもそも、高齢者にとって働くことは良いことなのでしょうか?

 

これまで懸命に働いてこられたのだから、

 

退職後はゆっくり過ごして頂いた方が良いのではないかという意見も多いかと思います。

 

一方で、働いている高齢者は、働いていない高齢者よりも、「主観的健康感」「精神的健康」「高次生活機能」が良好であったことが報告されており*2、

 

特に65歳以上の男性においては、就業者割合が大きい地域では平均寿命・健康寿命も長いことがわかっています*3。

 

高齢者の生きがいは、「意欲と目的感」「役割感,貢献感,有用感」「達成感」「使命感,責任感,義務感」「張り合い感」など様々な項目から成り立っていて*4、

就労を通じて社会とつながり続けることは高齢者の心身の健康維持や生きがいの獲得に良い影響を与える可能性が示されています。

高齢者が就労に求めているもの

高齢者自身は就労に何を求めているのでしょうか。

 

高齢者が就労に求めていることは4つのタイプがあります(表1)*5。

 *5:有馬教寧. “高齢者の就労と生きがいに関する研究の現状と課題.” 日本労務学会誌 21.3 (2021): 92-102. https://doi.org/10.24592/jshrm.21.3_92

 

表1より、高齢者は就労に対して、無理のない範囲で、良好な人間関係のなか、人の役に立つ仕事をして、収入を得ることを求めています。

 

就労環境や仕事内容の調整のみで上記を実現することは容易ではないので、

生きがい就労を実現するためには、

企業などの職場と高齢者自身でお互いに歩みよることが重要です。

 

 

生きがい就労の課題

高齢者にとって、就労は心身の健康や生きがい獲得に役に立つものであり、

高齢者の就労へのニーズを踏まえて、生きがい就労の実現を目指すことが重要です。

 

それでは、高齢者の生きがい就労を目指す・継続する際には、

どのような課題があるのでしょうか。

企業の課題

高齢化の影響は企業の従業員にも及んでいます。

 

15歳以上の就業者総数に占める高齢就業者の割合は13.6%と、過去最高となっています*1。(図3)

 

*1:総務省統計局.高齢者の就業の推移

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1292.html

 

企業としては、高齢者が出来る就労環境や業務内容を提供することで、生産性を確保することが可能となります。

 

一方で、業務を簡素化しすぎるとやりがいを得られにくいことや、

高齢者に適した状況を提供するためのノウハウがわからない、

そもそもコントロールできる職場環境や業務内容に限りがあるなどのジレンマを抱えています。

 

 

 

個人の課題

高齢者個人の課題としては、生産性の維持があげられます。

 

どのような人も、加齢に伴う体力や集中力の低下は避けることができません。

 

一方で、先述のとおり、就労している高齢者は体力も精神的な健康度も維持しやすいことが明らかになっています。

 

うまく就労を活用して、健康の維持・増進、そして生産性の向上から更なる就労継続へと

好循環を生み出すことで、生きがい就労が得られるのではないかと考えます。

生きがい就労を実現するために

これらの課題を解決して、高齢者が生きがい就労を実現するためには何が出来るのでしょうか。

今後求められる対策を次に示します。

高齢者に適した職場環境の整備

高齢者が就労して活躍するために、職場環境の整備はかかせません。

では、どのような点に配慮をすることで高齢者に適した職場環境を整備できるのでしょうか。

 

厚生労働省では、高年齢労働者の方々が安全・健康に働き能力が発揮できるような職場環境のためのチェックリストと、改善事項についてのマニュアルをしています*6。

 

マニュアルの中では、次の事項について確認と配慮を行うことが進められています。

 

1.作業管理能力

職務配置に当たって判断や記憶の能力、協働者との関係、作業時間など

2.作業環境

事故の防止や負担を軽減するための配慮など

3.健康管理

健康診断や適正配置・職場復帰のためのリハビリテーションなど

4.総括管理

高齢者の尊厳や意向への配慮など

5.労働衛生教育等

腰痛発生防止や技能・健康教育の機会の提供など

 

詳細なチェックリストや対策方法が記載されているので、

まずはご自身の職場の現状を知ることからはじめ、

可能な範囲から高齢者就労に向けた環境整備を行いましょう。

高齢者と職場・仕事内容のマッチング

高齢者が生きがいを感じられる仕事と出会うために、

今後活躍が期待されるのが、AIを利用したマッチングシステムです*7。

 

高齢者自身の職場や働き方への希望と、就職先の状況をマッチングすることで、現在ある資源を活用した生きがい就労の実現を目指すことができます。

 

また、職場復帰や適正配置には、理学療法士や作業療法士などのリハビリテーション専門職の関与が求められています*6。

 

リハビリテーション専門職は、加齢に伴う身体の変化や高齢者のトレーニング、動作の方法などについての知識を有しています。

 

高齢者の身体機能や動作能力の把握と改善を図ることで、高い生産性を発揮できる働き方やそのための身体づくり、職場環境の整備に貢献できます。

 

まとめ

高齢者が働くということは、退職後まで無理をさせてというイメージがある中、

健康やいきがいを得られる生きがい就労に繋がる可能性があります。

 

生きがい就労の実現のためには、ノウハウが解らないなど企業の問題と、加齢に伴う心身の変化や生産能力の低下など高齢者本人の課題があります。

 

厚労省のチェックリストを活用して職場環境の整備し、マッチングシステムやリハビリテーション専門職を活用して適切な仕事の提供を行うことで、高齢者が活躍できる機会を増やし、社会全体が明るくなることを願います。

 

参考サイト・参考文献

*1:総務省統計局.高齢者の就業の推移

https://www.stat.go.jp/data/topics/topi1292.html

 

*2:南潮(2016)「高齢期における健康維持と就業支援に関する研究」博士学位論文 , 兵庫県立大学 .

 

*3:長野県(2015)「長野県健康長寿プロジェクト・研究事業 報告書(健康長寿要因分析)」長野県ホームページ

https://www.pref.nagano.lg.jp/kenko-fukushi/kenko/kenko/kenkochojupj.html

 

*4:近藤勉・鎌田次郎(2003)「高齢者向け生きがい感スケール(K-I 式)の作成および生きがい感の定義」,社会福祉学,43(2), 93-101

 

*5:有馬教寧. “高齢者の就労と生きがいに関する研究の現状と課題.” 日本労務学会誌 21.3 (2021): 92-102.

https://doi.org/10.24592/jshrm.21.3_92

 

*6:厚生労働省.高年齢労働者に配慮した職場改善マニュアル~チェックリストと職場改善事項~

https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/0903-1a.pdf

 

*7:東京新聞.働きたいシニアと最適な職場をマッチング その名も「ジーバー」 AIの力で高齢者就労の難問解決へ

https://www.tokyo-np.co.jp/article/135939

この記事を書いた人

東馬場要1991年奈良県生まれ。医科学修士。脳卒中と神経難病の認定理学療法士。現在はロッツ株式会社でリハビリを実践しながら、災害支援団体にも所属して能登半島地震の被災者への支援活動を行っている。学生時代の経験から志した「障害や災害にあっても長生きを喜べる社会」の実現を目指している。

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