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更新日:2023.01.23その他老後の住み替えを成功させるポイントは?シニア向け住宅の選び方を宅建士が解説

高齢になっても住み慣れた自宅に住み続けられるのが理想的ですが、実現するには「家族と同居している」「持家である」などの条件が必要になります。
しかし現代は核家族化が進んでおり、親と同居している世帯は少なく、介護を頼めるとは限りません。

そのため、老後の住み替え先は身体状況、経済状況、家族状況などにより適切な場所を選ぶことが重要です。
高齢期を迎えて判断能力や体力が低下してしまう前に、自分にふさわしい住環境について検討しておいたほうが、満足の行くシニアライフを過ごせる可能性が高まります。

そこで本記事では「持家購入」「賃貸住宅」「施設」の3種類に分けてシニア層の住まいの選び方について解説します。
ぜひ、住まいの在り方について参考にしてください。

高齢者世帯の住宅の現状

最初に高齢者世帯の住宅の現状について解説します。

70代以上の約80%が一戸建てに住んでいる

下図1は令和3年10月に住宅金融支援機構が調査した、現在住んでいる住宅形態のグラフです。(調査対象:50代・60代・70代以上のマイホーム所有者)

各年代とも一戸建てが70%程度であり、70代以上では約80%が一戸建てに住んでいました。次に多いのは分譲マンションで、50代・60代では3割弱、70代以上は2割強という結果です。

 

この結果から持ち家を所有している高齢者世帯の約7割が、集合住宅よりも一戸建てに住んでいることが分かります。(下図1)

 

図1)出典:住宅金融支援機構「高齢者の住宅ニーズ等の分析」 P4

https://www.jhf.go.jp/files/400361592.pdf

 

 

高齢者世帯の持家比率は約8割と高め

日本の高齢者世帯は持家比率が高く、約8割が持家に住んでいます。(下図2:図表3)

バリアフリー・断熱性に対応していない住宅は6割強となっており、高齢者向けの住まいとしては適していない状況です。

しかしながら、高齢期に備えてリフォームを検討していない人は6割強で、住み替えを考えていない人も8割強となっています。(図表4、5)

 

本来であれば判断能力や体力があるうちに、高齢期を過ごす住宅への備えをしておくべきですが、実際に用意をしている人は少ない状況です。

 

なお、各年代とも配偶者との同居が70%を超え、子供との同居は60代になると減少しています。

一昔前の家族のように「老齢になっても子供がいるから大丈夫」というわけにはいきません。*1

 

図2)出典:財務省「高齢期における居住環境の選択について」P66

https://www.mof.go.jp/public_relations/finance/202202/202202o.pdf

 

 

一戸建てのほうが分譲マンションより住宅についての困り事が多い

次に、一戸建てと分譲マンションの住心地について比較してみましょう。

下図3は「住宅について困っていること」を一戸建てと分譲マンションに分けて表したグラフです。

全体的に、一戸建てのほうが住宅についての困り事が多いことが分かります。

 

特に目立つのは「庭の手入れや冬の雪かき」で、一戸建てでは2割程度の人が面倒であると回答しました。

その他の問題を年代別に見ていくと、50代・60代では「内壁や外壁の傷み」など見た目の印象が気になるようですが、70代では「耐震・断熱性能」など安全性を重視する傾向があります。

 

分譲マンションでは、一戸建てでよく見られる「庭の手入れや冬の雪かき」はほぼないに等しく、「内壁や外壁の傷み」「耐震・断熱性能」の問題も1割以下です。

 

特徴的なのは分譲マンションに住んでいる70代以上の8割が「特に困っていることはない」としている点です。一戸建てに住む70代以上では4割強と半数以下であったのに対し、高齢になってからも満足度が高くなっています。

図3)出典:住宅金融支援機構「高齢者の住宅ニーズ等の分析」 P16

https://www.jhf.go.jp/files/400361592.pdf

 

 

自宅で最期まで住み続けられる場合の主な条件

住み慣れたマイホームで余生を過ごせるのが理想的ですが、自宅で最期まで住み続けるには、以下の要件を満たしている必要があります。

 

1.住まいを所有しており、退去を求められないこと

2.家族が同居しているか、単身ならば老後資金にゆとりがあること

3.自分のスペースが確保され、比較的広い住居であること

4.自立心が旺盛なこと

5.自己管理ができること

6.地域に親しい知人、親族がいること

7.身近にホームドクターがいること *2

 

持ち家ならば退去を求められることなく住み続けられますが、介護が必要になった場合、家族と同居していないと難しくなります。

しかし、実際には年代が増加するとともに「同居する予定はない」の割合が高まっている状況です。*3

 

したがって、単身の場合は基本的に自立していて自己管理ができる状態でなければなりません。

 

万が一の事態に頼れる存在も欠かせないため、近くに親族や親しい知人がいることが望ましいといえます。

 

健康的に過ごすためには、日頃から身体状況を管理してくれるホームドクターも必要です。

 

シニア層が住み替える際の注意点

ここまで、老後の住まいや住み替えの重要性についてみてきました。

しかしシニア層が住み替えることは、そう簡単なことではありません。

その人の身体状況、経済状況、家族状況などに合わせてそれぞれ適切な場所を選ぶことが必要です。

ここでは、シニア層が住み替える際の注意点について解説します。

 

さまざまな選択肢を検討することが重要

一口に住み替えといってもさまざまな選択肢が存在します。

高齢になってからの住み替えは、かなり慎重に検討しなければなりません。

住み替え先を選ぶだけでなく、現在住んでいる住宅の活用方法なども考える必要があります。

どの住まいの形態が自分に適切であるか、どのように考える必要があるでしょうか。

 

比較検討のチェックポイント

最適な住み替え先を探すには、それぞれの住まいの入居条件や立地、契約形態などを比較検討してみましょう。

 

下図4は住み替え先が施設の場合のチェックポイントですが、戸建て住宅や賃貸住宅を選ぶ際にも役立ちます。

 

図4)出典::国土交通省「住み替えに係るポイントとカウンセリングのすすめ方 」 P225〜226 

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/sumikae/text_4.pdf

 

 

 

将来的にかかる介護や入居時の費用が重要なポイント

住み替え先に高齢者向けの施設や分譲マンションを選ぶ場合は、将来的にかかる介護や入居時の費用を重視しましょう。

入居時の費用が高額となるのは、高齢者向け分譲マンション、有料老人ホームです。中間はサービス付き高齢者向け住宅、​​比較的軽い負担で済むのはケアハウスとなります。*4

 

シニア層の住み替え先の選び方

シニア層の住み替え先には、以下の3つが候補として挙げられます。

 

  1. 持家購入
  2. 賃貸住宅
  3. 施設

 

それぞれの住まいについて特徴やチェックポイントを解説しましょう。

 

図5)国土交通省「住み替えに係るポイントとカウンセリングのすすめ方」 P253

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/sumikae/text_4.pdf

 

 

新しく持家を購入する

まず、新しく持ち家を購入するという方法が挙げられます。

この場合、候補となるのはバリアフリーの戸建て住宅か高齢者向けの分譲マンションです。

それぞれについて解説します。

 

バリアフリーの戸建て住宅

戸建て住宅を購入する際は、家の中が以下の構造になっているかどうかを確認する必要があります。

 

  • 高齢になっても生活しやすい間取り
  • 事故が起きにくい造りになっている
  • 日常的な動作をラクにするための補助装置が設置してある *5

 

あらかじめ介護状態になった時の状態を想定し、バリアフリー仕様の住宅を新築あるいは購入します。

高齢者の介護状態に応じて、その都度必要なリフォームをプラスしても良いでしょう。なるべく訪問あるいは通所の在宅サービスを利用しやすい工夫が必要になります。

 

各部位別のチェックポイントを以下の表にまとめました。新しい持家を用意する際にはこれらのポイントを確認しておきましょう。

 

【部屋別・設備のチェックポイント】

図6)出典:国土交通省「住み替えに係るポイントとカウンセリングのすすめ方」 P242〜243

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/sumikae/text_4.pdf

 

 

高齢者向けマンション

近年では民間の事業者によって、高齢者向けの分譲マンションが販売・運営されています。

介護付きマンションとも呼ばれており、高齢者が暮らしやすいバリアフリーに設計され、充実したサービスを受けられるのがメリットです。

例えば病院や天然温泉大浴場、レストランなどが併設されているマンションもあります。

 

基本的に「自立した高齢者」が対象 ですが、マンションによっては要支援1、2や要介護度1~5の高齢者でも受け入れています。

 

入居する際には、安否確認の見守り、介護サービスの有無、オプションサービスの内容(清掃・食事・買い物など)をよく確認しましょう。 *6

 

 

 

シニア向けの賃貸住宅を借りる

持ち家を購入しなくても、シニア向けの賃貸住宅を借りるという方法もあります。

シニア向けの賃貸住宅として代表的なのは以下の通りです。

 

図7)出典: 独立行政法人 福祉医療機構「高齢者専用賃貸住宅について」 P32

https://www.wam.go.jp/wamappl/bb05kaig.nsf/0/03e62f02ce0f025149257199000b26ae/$FILE/20060623siryou3.pdf

UR賃貸住宅「高齢者向け住宅とは?その種類と特徴を紹介」

https://www.ur-net.go.jp/chintai/college/202203/000862.html

 

 

近年では自治体などが高齢者向けの住まいを提供しているので、高額な資金を用意しなくても安心して入居できます。

 

高齢者向けの施設に入居する

単身の方や夫婦だけでお住まいの方は、高齢者向けの施設に入居するのも良い方法です。

元気なうちから入居でき、介護状態になってもそのまま住み続けられます。

 

入居する際のチェックポイントは上図4で解説した通りです。入居条件やサービス内容、立地、利用料、退去時の条件などを十分チェックする必要があります。

 

まずは資料を取り寄せて検討しますが、実際に見学や体験入居をして夜間の職員体制などもチェックしましょう。見学と体験入居のポイントは以下の表をご参考にしてください。

 

図8)出典:国土交通省「住み替えに係るポイントとカウンセリングのすすめ方」 P240〜241 

 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/sumikae/text_4.pdf

 

 

まとめ

今回は、老後になってからの住み替え先について詳しく解説をしました。

持家、賃貸住宅、施設とさまざまな住まいの形態がありますが、ご自身の身体状況や経済状況、世帯状況などに合わせて適切な住宅を選ぶことが必要です。

安心して老後を過ごせるように、元気なうちから「終の住処」について検討してみてはいかがでしょう。

参考サイト・参考文献

*1 参考)住宅金融支援機構「高齢者の住宅ニーズ等の分析」P6

https://www.jhf.go.jp/files/400361592.pdf 

*2 参考)国土交通省「住み替えに係るポイントとカウンセリングのすすめ方」 P224

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/sumikae/text_4.pdf

*3 参考)住宅金融支援機構「高齢者の住宅ニーズ等の分析」P22

https://www.jhf.go.jp/files/400361592.pdf 

*4 参考)UR賃貸住宅「高齢者向け住宅とは?その種類と特徴を紹介」

https://www.ur-net.go.jp/chintai/college/202203/000862.html

厚生労働省「R2.8.3 第1回 住まい支援の連携強化のための連絡協議会」P2

https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/000656699.pdf 

*5参考)国土交通省「住み替えに係るポイントとカウンセリングのすすめ方」  P242

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/sumikae/text_4.pdf

*6  参考)国土交通省「住み替えに係るポイントとカウンセリングのすすめ方」 P243

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/sumikae/text_4.pdf

 

この記事を書いた人

矢口美加子ライター・宅地建物取引士・整理収納アドバイザー。宅建・整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を取得済み。不動産・介護リフォーム・不動産投資・整理収納関連の記事を複数のメディアで執筆。ライター業の他に、家族が経営する投資用物件の入居者管理もこなす。

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