更新日:2022.12.22その他保険会社が販売する介護保険は必要?公的介護保険との違いは?
2000年から始まった介護保険制度により、自己負担を抑えつつ介護サービスを受けられるようになりました。
しかし介護施設に入所すればひと月10万円ほど支払わなくてはならないなど、負担額は決して小さなものではありません。
そのような場合に金銭的な負担を軽減してくれるのが、民間の保険会社が販売している「介護保険」です。
ただし保険会社が販売する介護保険は、保険料が高いことが多く、支払い条件も厳しい可能性があるなどデメリットもあります。
そこで本稿では、介護保険制度と民間の介護保険の具体的な違いや、メリット・デメリットについて解説します。
目次
「介護保険制度」の概要と注意点
介護保険制度は、要介護状態になった時に役立つ制度です。 ここでは、介護保険制度の概要と注意点を解説します。
介護保険制度の概要
加齢や病気、けがを原因として介護が必要な状態になった場合は、地方自治体が運営する「介護保険制度」を利用することができます。 介護保険制度とは、様々な原因で介護が必要になった人を、社会全体で支えていく制度です。*1 介護保険制度には、身体の状態により区分があり、要支援1〜要介護5の7段階に別れています。
引用)厚生労働省「要介護認定の仕組みと手順 要介護状態区分別の状態像」p11
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf
介護保険制度の注意点
介護保険制度は「サービスの提供」を助成する制度であり、金銭を受給できるわけではありません。 したがってサービス利用には自己負担が発生します。 例えば、加齢により介護状態となり、特別養護老人ホームなどの居宅サービスを利用することになったとしましょう。 居宅サービスの1ヶ月あたりの支給限度額は要介護度別に定められており、要支援1の場合は50,320円、要介護5の場合は362,170円です。 それぞれに定められた支給限度額を超過すると、全額自己負担となります。
では、毎月いくらの自己負担が発生するのでしょうか。 厚生労働省が発表している施設サービスの自己負担額は、特別養護老人ホームの場合で毎月約104,000円、個室を利用する場合は約141,030円と高額です。*2
また、年齢による制限もあります。 40〜64歳は、がんや脳血管疾患、関節リウマチなど16種類の特定疾病により、介護状態にならないとサービスの提供が受けられません。*3 それ以外のサービス利用費は全額自己負担となります。
介護保険制度は介護状態になった時に役立つ制度ですが、自己負担費用が家計を圧迫する可能性があります。
保険会社が販売する「介護保険」のメリット・デメリット
ここまで、「介護保険制度はサービスの提供を助成するもので、自己負担が発生すること」「年齢によっては原因となる疾病に制限があること」を見てきました。
では、どのようにして「要介護状態」に備えるべきなのでしょうか。
様々な考え方がありますが、ここでは保険会社が販売する「介護保険」という選択肢について解説します。
「介護保険」の概要
保険会社が販売している「介護保険」は、所定の要介護状態になった時に、一時金もしくは年金を受け取れる保険です。
介護保険の支給要件は主に「要介護2以上」が主流です。
なお要介護2に指定されるためには、「歩行」「洗身」「爪切り」「薬の内服」「金銭の管理」「簡単な調理」の能力が80%以上の割合で低下していなければなりません。
要介護2に指定されるためは、1人では日常生活を送ることができないことを証明する必要があります*4。
車いす生活に合わせて家をリフォームするなど、まとまった資金に備えたい場合は一時金タイプが、生活費やサービス利用費など、継続的な資金への不安を払拭したい場合は年金タイプが適しています。
介護保険制度でまかないきれない金銭的な不安をカバーしたい場合には、加入を検討すると良いでしょう。
他にも死亡保障と介護保障がセットになっている商品や、介護の不安に備えながら資産形成機能も併せ持つ商品、介護状態にならなければ健康祝金を受け取れる商品など、様々な種類が発売されています。
どのようなタイプ・商品を選ぶかは、年齢や持病の有無、保険料などによります。
加入を検討する際には、様々な条件をよく比較しましょう。
「介護保険」のメリット
介護保険の一番大きなメリットは、40~64歳までの介護リスクをカバーできることです。
16の特定疾病以外の病気やけがで介護状態になった場合でも、保険会社が定める所定の状態に該当すれば、お金を受け取ることができます。
年齢や病気やけがなどの原因を問われない点は安心と言えるでしょう。
「介護保険」のデメリット
ただし、デメリットもあります。
一番大きなデメリットは、高齢になればなるほど保険料が高いこと、持病や通院状況によっては加入できないことです。
また、多くの保険会社が支給要件とする「要介護2以上」の条件が、先述のように厳しいことも挙げられます。
「要介護1の認定は受けたが、要介護2には該当していない」
「要支援または要介護状態には指定されないものの、生活には不便があり仕事ができない」
このような状況になっても、お金を受け取ることはできません。
費用を抑えるなら「認知症保険」という選択肢も
「介護保険の保険料は高く断念するしかないが、何らかの保障は持っていたい」
「将来の認知症が心配」
このような場合は「認知症保険」という選択肢もあります。
「認知症保険」とは、保険会社が販売する介護保険の中でも、認知症に特化した商品です。
認知症と初めて診断されたときに、一時金もしくは年金を受け取ることができます。
認知症の保障をメインにするタイプと、介護保険にオプションとしてつけるタイプがあります。
ただし、支払い要件は商品により異なるため、よく比較する必要があります。
認知症に特化しているため介護保険に比べて保険料が安いのが特徴です。しかし、「認知症保険」は認知症と診断されることが必要なので、仮に要介護状態になったとしてもお金を受け取ることはできません。
介護保険に加入していると勘違いして受給申請し、お金を受け取れないということもあるので、注意が必要です。
自己負担を抑える制度「高額介護サービス費」など
高額な費用をまかなうときの選択肢は、保険だけではありません。 ここでは、「高額介護サービス費」と「高額医療・高額介護合算制度」について解説します。
高額介護サービス費
高額介護サービス費とは、福祉用具購入費や食費・居住費などを除く、月々の利用者負担額の合計額が、所得に応じて決められた上限額を超えると、介護保険から支給される制度です。
支給を受けるためには、市区町村に申請することが必要です。
所得に応じた設定区分は4段階あります。 例えば、生活保護を受給している場合は個人で1万5000円、市区町村民税課税世帯〜課税所得380万円(年収約770万円)未満の場合は世帯で4万4400円です。*5
高額医療・高額介護合算制度
高額医療・高額介護合算制度を利用すると、同じ医療保険の世帯内で、医療保険と介護保険両方に自己負担が生じた場合に、合算後の負担額が軽減されます。
決められた限度額(年額)を500円以上超えた場合、医療保険者に申請をすると超えた分が支給されます。
年齢と年収によって負担上限額が異なります。 自己負担額が最も高いのは年収約1,160万円で212万円、最も低いのは市町村民税世帯非課税かつ年金収入80万円以下等(本人のみ)で19万円です。*5
介護費のみでの自己負担額が低く「高額介護サービス費」の支給が受けられなくても、医療費と合算することで「高額医療・高額介護合算制度」の支給が受けられる可能性があります。
まずはお住まいの市区町村の対応窓口や、加入医療保険組合に問い合わせてみてください。
まとめ
介護保険制度ではまかなえない部分を、保険でカバーするというのも一つの選択肢です。
しかし、保険料や保障の範囲など、検討すべき点は多々あります。 「高額介護サービス費」などの助成もあるため、保険加入を検討する際は様々な制度や保険商品を比較しましょう。
本稿がその助けになれば幸いです。
参考文献
*1 出所)厚生労働省「介護保険とは」 https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/about.html
*2 出所)厚生労働省「サービス利用者の費用負担等」https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html *3 出所)厚生労働省「介護保険制度について 厚生労働省(40 歳になられた方へ)」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/2gou_leaflet.pdf p2
*4 出所)厚生労働省「要介護認定の仕組みと手順 要介護状態区分別の状態像」p11 https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11901000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Soumuka/0000126240.pdf
*5 出所)厚生労働省「サービス利用者の費用負担等」https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html