更新日:2023.01.06その他介護休業制度を活用し仕事と両立しよう!利用方法や給付金について詳しく解説
総務省の「平成29年就業構造基本調査」の結果によると、介護をしている人は627.6万人で、そのうち仕事もしている人は346.3万人となっています。
「介護・看護」を理由として離職した人は9.9万人で、過去1年間に前職を離職した人の割合の1.8%を占めました。*1
介護は時間と労力がかかるため負担が大きく、介護離職をする人は少なくありません。
このような事情からも、介護をしている労働者が仕事との両立を図るために活用したいのが、「介護休業制度」です。
介護休業とは、労働者が要介護状態にある家族を介護するために取得できる休業です。
休業期間中に自分が介護を行うだけでなく、仕事と介護を両立できる体制を整えることが大切となります。
そこで本記事では、介護休暇との違い、対象となる労働者、介護休業の申出方法、介護休業給付金などについて分かりやすく解説します。
家族の介護を考える上で、上手に活用して下さい。
目次
介護休業制度の概要
介護休業制度とは、家族の介護と仕事を両立させるために一定の期間休業できる制度です。
勤務先に制度がない場合でも、法に基づいて制度を利用できます。
なお、介護休業と介護休暇では制度の内容に違いがあります。
ここでは、介護休業制度の概要について解説しましょう。*2
介護休業【家族の介護のためにしばらく休みたい場合】
介護休業とは、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで休業できる制度です。
一度に93日を取得することもできますが、3回を上限に分割して取得することも可能です。
(分割時の例:1回目30日、2回目30日、3回目33日など)
なお、要介護状態とは以下の状態が該当します。
- 介護保険制度の要介護状態区分が要介護2以上
- 要介護認定を受けていなくても2週間以上の期間にわたり介護が必要な状態 *3
対象となる労働者と家族
令和4年4月1日からは「入社1年以上であること」の要件が廃止され、
契約社員やパートタイマーなども要件を満たせば利用できるようになりました。
ただし、労使協定(使用者と労働者の間で取り交わす書面契約)を締結している場合、
以下に該当する労働者は対象外となります。
・入社1年未満の労働者
・申出の日から93日以内に雇用期間が終了する労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 *4
図1)出典:厚生労働省「介護休業とは」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html
対象となるのは配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫など「2親等以内の親族」または「配偶者(内縁の父母を含む)」の関係性にある家族です。
なお、介護関係の「子」の範囲は法律上の親子関係がある子(養子含む)のみとなります。
図2)出典:厚生労働省「介護休業とは」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/closed/index.html
介護休暇【通院の付添いで半日休みたい場合など】
介護休暇とは介護のために半日や1日だけなど、短い期間で休みたい場合に利用できる休暇です。
介護休業と同様に、労働者が要介護状態にある対象家族の介護や世話をするために設けられました。
通院の付添いやケアマネジャーとの打ち合わせなどをするために、
年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで1日または時間単位で取得することが可能です。
年次有給休暇とは別に取得できますが、会社によって有給あるいは無給であるかが決まります。*5
対象となる労働者と家族
介護休暇の対象となるのは家族を介護する男女の労働者(日雇いの人はを除く)です。
対象となる家族は、配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫で介護休業と同様です。
労使協定を締結している場合は「入社6か月未満の労働者」「1週間の所定労働日数が2日以下の労働者」は対象外となります。
申請方法は口頭での申出も可能ですが、社内で規定されている書面がある場合は、社内様式で申請します。
短時間勤務・時間外労働の制限・所外労働の制限・深夜業の制限
介護休業制度には、短時間勤務・時間外労働の制限・所外労働の制限・深夜業の制限などが設けられ、
労働者が仕事と介護を両立できるように勤務時間を調整できるようになりました。
短時間勤務の措置では、事業主は「短時間勤務」「フレックス制度」などを
利用開始から3年以上の期間で2回以上利用できるようにしなければなりません。
また、介護が終了するまで残業を免除、時間外労働・深夜業の制限も設けられ、
心身に重い負担をかけることなしに仕事と介護を両立しやすくなります。
図3)出典:厚生労働省「介護休業制度」
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000833742.pdf
介護休業を理由とした不利益取扱いやハラスメントの禁止
介護休業制度では、制度を利用したことにより不利益な取扱いをすることは禁止されています。
例えば、以下のような扱いは法違反です。
- 解雇された
- 契約が更新されなかった
- パートになれと強要された
- 減給された
- 普通ありえないような配置転換をされた *6
事業主は上司や同僚からの介護休業等を理由とする嫌がらせ等を防止する措置を講じなければなりません。
万が一、ハラスメントを受けた場合は、都道府県労働局雇用均等室に相談しましょう。
都道府県労働局雇用均等室の連絡先はこちら
https://www.mhlw.go.jp/content/000177581.pdf
「介護休業給付金」で介護休業中の生活を経済的に支援
介護休業制度が利用できたとしても、休業している間の有給・無給は勤務先の会社により異なります。
勤務先の会社には介護休暇中の給与を支払う義務はありません。
そのため、会社によっては「無給」の場合もあります。
そんな場合に利用したいのが「介護休業給付金」の制度です。
ここでは、介護休業給付金の制度内容や支給額について解説します。
介護休業給付金
介護休業給付金とは、介護休業を取得した場合に請求できるお金のことです。
雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方は、
介護休業期間中に休業を開始した時の賃金月額の67%が支給されます。
支給対象者・支給対象期間
請求できるのは要介護状態にある家族を介護するために、
介護休業をする雇用保険の被保険者です。
介護休業開始日から最長で3か月間まで受け取れます。
同一の家族について3回まで支給され、介護休業日数の限度は93日です。
図4)出典:厚生労働省「育児休業 、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的に支援します」P6
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r02_01_04.pdf
支給額
事業主から給料が支払われない場合の支給額は、以下の計算式で算出します。
介護休業給付金額=休業開始時賃金日額×支給日数×67%
厚生労働省の試算では、介護休業期間中に「賃金の支払いがない場合」の1ヶ月間の支給額は、概ね以下の通りです。
図5)出典:厚生労働省「Q&A~介護休業給付~」Q6
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158665.html
なお、給付額には上限があり、介護休業期間中に事業主から「賃金が支払われている」と減額される場合があります。(下図6)
下図6のように、受け取った賃金が賃金月額の13%以下であるときは賃金月額の67%相当額支給されますが、13%を超えて80%未満の場合は賃金月額の80%相当額と事業主から支給される賃金の差額が支給されます。
支払われた月額賃金が80%以上の場合は支給されません。
図6)出典:厚生労働省「育児休業 、産後パパ育休 や介護休業をする方を経済的に支援します」P4
https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/pdf/ikuji_r02_01_04.pdf
手続き
介護休業給付金の支給申請は原則、事業者が行います。
労働者本人が申請することも可能で、電子申請による支給申請もできます。
ただし、事業主を経由して「介護休業給付金支給申請書」を提出する場合は、
支給申請書と同時に提出できます。*8
企業の取組事例
ここでは、実際に企業が行なっている取組事例を2つご紹介しましょう。
ぜひ、自社での取り組みの在り方について、それぞれの立場で参考にしてください。
コマツ(株式会社小松製作所)
コマツの介護休業制度は、最大3年間取得することが可能です。介護休暇は要介護家族1人につき年間5日、2人以上であれば年間10日の介護休暇を有給で取得できます。
その他の取り組みは以下の通りです。
・社外の介護専門家による個別相談会を月2回実施
・専門家によるセミナーの開催
社外の介護専門家による個別相談会を月2回実施する「介護個別相談」が好評です。
現在はコマツグループ全体で介護に関する理解を深める取り組みを行なっています。*9
EY Japan
EY Japanでは社員の介護に関する悩みを知るため、2020年5月に「オンライン介護セミナー」を社内で開催しました。反響は大きく、参加者は40代、50代をメインに、20代、30代の方も参加もしています。
主な取り組みは以下の通りです。
・介護の専門家を招いて、一般的な介護についてセミナーを開催
・介護保険が始まる40歳になった時にダイレクトメールを送付
・在宅勤務を基本のワークスタイルに
・家族の看護に使える休暇&中抜け制度を設置
・「EYフレックス&リモート」施策において従業員の移住要望にも対応
福利厚生全体をグループ会社で統一するために改定を進めて行くところです。今後の取り組みとして、介護コンシェルジュや介護カフェも検討しています。*10
まとめ
これからの日本はますます高齢化が進み、介護と仕事を両立させることがキーポイントとなります。介護が原因での不本意な離職を避けるためには、事業主が先頭を切って介護休業制度を取り入れていく必要があります。
介護休業に関する相談は都道府県労働局、介護保険サービスは地域包括支援センターで相談できるので、分からない点がある場合は問い合わせてみましょう。
参考文献
*1参考)総務省「平成29年就業構造基本調査」 P5-6(表Ⅰ-6)
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf
*2・3参考)厚生労働省「介護で仕事を辞める前にご相談ください!」P2
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000833741.pdf
*4参考)厚生労働省「介護休業とは」
*5参考)厚生労働省「介護休暇とは」
*6参考)厚生労働省「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関する不利益取扱いやハラスメントについて」 P1
https://jsite.mhlw.go.jp/chiba-roudoukyoku/content/contents/000663610.pdf
*7参考)厚生労働省「Ⅲ 介護休業制度」 P63
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000355361.pdf
*8参考)ハローワークインターネットサービス「雇用継続給付」
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/insurance/insurance_continue.html
*9参考)東京都産業労働局「事例12:コマツ(株式会社小松製作所)」
https://www.katei-ryouritsu.metro.tokyo.lg.jp/kaigo/jinji-4/j-12/index.html
*10参考)東京都産業労働局「事例11:EY Japan」
https://www.katei-ryouritsu.metro.tokyo.lg.jp/kaigo/jinji-4/j-11/index.html