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更新日:2023.01.30ヘルスケアスギ花粉症やダニアレルギーを体の中から改善!舌下免疫療法って何?メリットは?

日本人にとって、アレルギー疾患は最も身近な病気といってもよいかもしれません。

2021年12月~2022年1月に行われた調査によると、6割を超える人が「アレルギー疾患がある」と答えています*1。




アレルギー疾患の中でも、特に多いのが花粉症と通年性アレルギー性鼻炎です。そして、花粉症の約7割がスギ花粉症*2と考えられており、アレルギー性鼻炎の約6割がダニを原因とするもの*3だといわれています。




そこで今回は、スギ花粉症やダニアレルギーの症状軽減に役立つ「舌下免疫療法」について解説します。健康保険が適用される治療ですので、アレルギー症状にお悩みの方はぜひ参考にしてください。

「舌下免疫療法」とは?

 

最初に、舌下免疫療法がどのような治療法なのかを知っておきましょう。

 

 

 

舌下免疫療法は体を慣らして過剰なアレルギー反応をおさえる治療

舌下免疫療法は、「アレルゲン免疫療法」と呼ばれる治療法の一つです。

アレルゲン免疫療法とは、アレルゲン(アレルギーを引き起こす成分)をごく少量ずつ投与して体を慣らし、過剰なアレルギー反応が起きないようにする治療です。

 

アレルゲン免疫療法には、注射を使う方法や舌下錠(舌の下に含んで溶かすタイプの錠剤)を使う方法などがありますが、舌下錠を使う治療は「舌下免疫療法」と呼ばれています。日本では、スギ花粉症あるいはダニアレルギー性鼻炎と診断された場合に、舌下免疫療法を受けられます*4

舌下免疫療法の治療スケジュール

舌下免疫療法には、「増量期」と「維持期」があります。

「増量期」と呼ばれるのは最初の3~7日間で、アレルゲンを少量含む錠剤を1日1回服用します。

その後、「維持期」では成分量の多い錠剤に切り替え、同様に1日1回錠剤を服用します。治療推奨期間は3~5年です(下図)*5

 

舌下免疫療法のスケジュール例(増量期が7日間のものを使用した場合)

 

引用)アレルギーポータル「アレルギーについて>アレルギーの治療について」*5

https://allergyportal.jp/knowledge/treatment/

 

舌下免疫療法で期待できる効果

舌下免疫療法を受けると、治療開始から数ヵ月ほどで症状が軽くなり*6、治療終了後も2年~8年ほどは症状がおさえられるといわれています。また、症状が再発した場合でも、舌下免疫療法を再開すれば、短期間で症状軽減効果があらわれます*7

「舌下免疫療法」を受けるメリットと注意点

次は、舌下免疫療法を受けるメリットと、治療前に知っておきたい注意点を解説します。

「舌下免疫療法」を受けるメリット

保険適用がある

舌下免疫療法は、健康保険が適用される治療法です。

負担額が3割の場合、1ヵ月分の薬剤費はスギ花粉舌下錠で1,230円程度、ダニ舌下錠で1,700~1,800円程度です(2022年現在の薬価に基づき、薬剤費のみを計算。診療費などは別途必要。)*8*9*10

 

初回を除き自宅での治療が可能

舌下免疫療法はアレルゲンを投与する治療のため、初回は医療機関内での服用となります。これは、アナフィラキシーなどの重篤な副作用の発現に備えるためです。初回服用時に特に問題がなければ2回目以降は自宅などで薬を服用し、医療機関に受診するのは月に1回程度ですみます*4

一方、注射を使うアレルゲン免疫療法では、通常治療開始から数ヵ月間は週2回~2週間に1回は医療機関を受診しなければなりません*5。そのため、自宅で治療を続けられる舌下免疫療法は、通院の負担が少ない治療法といえるでしょう。

 

アレルギー治療薬の減量や中止が期待できる

舌下免疫療法でアレルギー症状が軽くなれば、アレルギー治療薬の減量が可能です。なかには、まったく薬を飲まなくても過ごせるようになる方もいます。アレルギー治療薬の量が減れば医療費の節約になりますし、眠気や口渇などの副作用に悩まされることも少なくなります。

 

QOL(生活の質)が改善される

アレルギー症状が軽減されると、QOLが改善されます。判断力や作業能率の低下も防げるため、勉強や仕事にもより集中しやすくなるでしょう。

 

「舌下免疫療法」の注意点

次は、舌下免疫療法を受ける前に知っておくべき注意点です。

 

定期的な受診が必要

舌下免疫療法を受ける場合には、月に1回程度医療機関を受診しなければなりません。これは、重篤な副作用の発生を未然に防ぐために欠かせないことです。特に、治療開始直後や増量期から維持期に移る時期は副作用が発生しやすいため、治療を希望する際は通いやすい医療機関を選ぶようにしましょう。

 

毎日薬を服用しなければならない

舌下免疫療法を継続するためには、毎日1回薬を服用しなければなりません。

もっとも、維持期に入ってからであれば、週1~2回程度の飲み忘れは許容範囲です。毎日の生活の中で服用しやすいタイミングを見つけておき、できるだけ飲み忘れないようにしましょう。

 

治療終了までに3~5年かかる

舌下免疫療法は、治療開始から終了までに3~5年かかります。

もっとも、治療効果があらわれるまでの期間は比較的短く、ダニアレルギーであれば治療開始から数ヵ月後に、スギ花粉症であれば次の花粉症シーズンには効果を実感できます*6。アレルギー症状が軽減されるとQOLが大きく改善されるため、治療を中断してしまう方は100人中6~7程度にすぎません(下図)*11

 

舌下免疫療法の治療実態

引用)QLifePro「アレルギー性鼻炎 > 耳鼻咽喉科医師600人調査(3)舌下免疫療法の治療実態」*11

http://www.qlifepro.com/special/2019/06/28/hay-fever-research03/

 

 

副作用が起きることもある

舌下免疫療法に限らず、医薬品を使う際には副作用が発生するリスクがあります。

特に舌下免疫療法では、治療開始直後から1ヵ月ほどの間に口腔内の副作用(腫れ・不快感・かゆみ・舌炎・喉の痛みなど)があらわれやすいことがわかっています*12*13*14

ただ、治療を中止せざるを得ないほどの重篤な副作用が生じることはまれです。場合によっては、舌下免疫療法と副作用をおさえる治療を並行して行うこともありますので、処方医にご相談ください。

 

「体質だから」とあきらめる前に

スギ花粉舌下錠、ダニ舌下錠は、それぞれスギ花粉症、ダニアレルギー専用の治療薬です。そのため、スギやダニ以外のアレルギーには効果が期待できません。

 

しかしながら、先にも述べたように花粉症の7割はスギ花粉症で、アレルギー性鼻炎の約6割がダニを原因とするものだといわれています。そのため、舌下免疫療法はアレルギー症状に苦しむ多くの方に効果が期待できると考えられます。

 

「アレルギーは体質だから、どうしようもない」とあきらめてしまう方もいるようですが、そのような方にこそ、検査でアレルゲンを特定して適切な治療を受けていただきたいと思います。

 

検査の結果、スギ花粉症、あるいはダニアレルギーであることがわかれば、舌下免疫療法を受けられます。治療で症状が改善すれば、アレルギー治療薬の使用量を減らせますし、薬の副作用に悩まされることも少なくなるでしょう。

 

他方、スギやダニがアレルゲンではないと診断された場合でも、アレルギーの原因がわかれば適切な治療を受けられますし、対策を講じることも可能になります。

 

ご自身はもちろん、ご家族がアレルギー症状で悩んでいる場合は、この機会に医療機関を受診し、舌下免疫療法について相談してみてはいかがでしょうか。

 

参考文献・参考サイト

*1

出所)アレルギーポータル「アレルギーの本棚>医療従事者の方向け>2021年度アレルギー疾患に関するアンケート調査結果」1枚目

https://allergyportal.jp/bookend/guideline/

https://allergyportal.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/10081933/65f38faf37fdd4268b99fcdc63b68c39.pdf 1枚目

*2

出所)アレルギーポータル「アレルギーについて>花粉症」

https://allergyportal.jp/knowledge/hay-fever/

*3

出所)奥田稔,他「アレルギー性鼻炎における昆虫アレルギーの全国調査」日本耳鼻咽喉科学会会報.2002,105(12),p.1181-1188図1

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka1947/105/12/105_12_1181/_pdf/-char/ja

*4

出所)鳥居薬品 トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ「STEP02アレルギー性鼻炎の診断と治療>舌下免疫療法とは」

https://www.torii-alg.jp/slit/

*5

出所)アレルギーポータル「アレルギーについて>アレルギーの治療について」

https://allergyportal.jp/knowledge/treatment/

*6

出所)鳥居薬品 トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ「STEP02アレルギー性鼻炎の診断と治療>舌下免疫療法Q&A>効果はどれくらいであらわれるの?」

https://www.torii-alg.jp/slit/faq.html

*7

出所)山梨大学医学部附属病院 やまなしアレルギーナビ「アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の効果は、どの位の期間、持続しますか?」

https://yallergy.yamanashi.ac.jp/ynavi/a_id-316

*8

出所)日経メディカル「医師TOP>処方薬事典TOP>アレルギー・呼吸器疾患治療薬>スギ花粉症の減感作療法薬(アレルゲン免疫療法薬)>シダキュアスギ花粉舌下錠5,000JAU」

https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/44/4490035F2023.html

*9

出所)日経メディカル「医師TOP>処方薬事典TOP>ミティキュアダニ舌下錠10,000JAU」

https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/44/4490031F2025.html

 

*10

出所)日経メディカル「医師TOP>処方薬事典TOP>アシテアダニ舌下錠300単位(IR)」

https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/prd/44/4490030F2020.html

*11

出所)QLifePro「アレルギー性鼻炎 > 耳鼻咽喉科医師600人調査(3)舌下免疫療法の治療実態」

http://www.qlifepro.com/special/2019/06/28/hay-fever-research03/

*12

出所)シダキュアスギ花粉舌下錠添付文書P.2【使用上の注意】2.重要な基本的注意(3)

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/480306_4490035F1027_1_07P.2【使用上の注意】2.重要な基本的注意(3)

*13

出所)ミティキュアダニ舌下錠添付文書P.2【使用上の注意】2.重要な基本的注意(3)

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/480306_4490031F1029_1_06 P.2【使用上の注意】2.重要な基本的注意(3)

*14

出所)アシテアダニ舌下錠添付文書P.2 8.重要な基本的注意8.3

https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/340018_4490030F1024_1_12 P.2 8.重要な基本的注意8.3

 

この記事を書いた人

中西真理公立大学薬学部卒。薬剤師。薬学修士。医薬品卸にて一般の方や医療従事者向けの情報作成に従事。その後、調剤薬局に勤務。現在は、フリーライターとして主に病気や薬に関する記事を執筆。

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