更新日:2023.01.30ヘルスケア健康を損なう危険性も 飲み忘れを減らす服薬介助のポイントを薬剤師が解説
「薬局でもらった薬が残ってしまった」という経験は、多かれ少なかれ誰にでもあることでしょう。
実際、1ヵ月以上継続して薬を処方された約1,000人を対象とした調査では、半数以上の人が飲み残し薬の有無について「よくある」「たまにある」と答えています*1。
引用:日本調剤「ニュースリリース2014年度>PR>「処方薬の飲み残しに関する意識調査」を行いました」*1
https://www.nicho.co.jp/corporate/newsrelease/11546/
もっとも、薬を飲み残してしまう理由は、「単なる飲み忘れ」「薬が多すぎる」「薬が飲みにくい」など人それぞれです*2。
そこで今回は、薬の飲み残しが生じてしまう理由ごとに、飲み残しを減らす方法を紹介します。
併せて、介助者がやってしまいがちな「誤った対処法」とその問題点も解説しますので、ご家族などの服薬介助をされている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
飲み忘れを減らす・飲みにくい薬を飲みやすくする工夫
まず、飲み忘れを減らす工夫と、飲みにくい薬を飲みやすくする工夫を見ていきましょう。
飲み忘れを減らす工夫
アラームをセットする
「ついうっかり、薬を飲み忘れてしまう」という場合は、服用時間に合わせてアラームをセットしておくとよいでしょう。
スマートフォンなどのアラーム機能のほか、飲み忘れ防止の専用アプリなどを利用するのもおすすめです。
スマートフォンであれば、時間だけではなく曜日も指定してアラームをセットできるため、週に1回、あるいは曜日指定で服用する薬の飲み忘れ防止にも役立ちます。
お薬カレンダーなどを利用する
「薬の種類が多くて、飲み忘れてしまう薬がある」という場合は、用法ごとに服用する薬を管理できる「お薬カレンダー」などを活用すると飲み忘れが少なくなります。
マンスリータイプやウィークリータイプなどさまざまなタイプがあるため、ライフスタイルに合わせて使いやすいものを選んでください。
引用)イラストAC「イラスト素材:一包化薬入一週間内服薬管理用薬カレンダー」*3
https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=1152993
薬の一包化をしてもらう
医師に薬の一包化(用法ごとに薬をパックすること)をリクエストして、処方箋に一包化指示を入れてもらうという方法もあります。
ただし、一包化してもらうと薬局での負担額が増える場合があります。
負担額が心配な場合は、どれくらい支払額が変わるかをあらかじめ薬局に問い合わせておきましょう。
一包化を希望しない場合でも、薬局で「用法ごとに薬袋を分けて欲しい」といったリクエストをすれば応じてくれることもあります。
一包化した分包紙に用法を印字してもらう
薬の一包化を希望する場合は、分包紙(薬をパックしている半透明の袋)に用法を印字してもらいましょう。
薬局で使用している機器の都合で印字できない場合は、用法ごとの色分けをリクエストしてみてください(下図参照)。
色分けしてあると、より一層用法がわかりやすくなるため、飲み間違い防止にもなります。
一包化した薬の色分け(例)
引用)イラストAC「イラスト素材:一包化薬袋朝昼夕食前食後寝前色分け頓服も」*4
https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=1152972
介護者(家族・ヘルパーなど)が服薬介助する
ご本人による薬の管理が難しい場合でも、介護者の積極的な協力で飲み残しを減らすことは可能です。
お薬カレンダーを利用する・薬を一包化してもらう・用法ごとに薬袋を分けるなどの方法は、服薬をサポートする方の負担軽減にもつながりますので、積極的に利用してください。
飲みにくい薬を飲みやすくする工夫
薬の数が多すぎて飲みにくい場合
薬の数が多すぎて薬が飲みにくい場合は、薬の種類や数を減らせないか医師・薬剤師に相談してみましょう。
薬の内容によっては、2種類の薬を1種類の配合剤(複数の成分が配合されている薬)に変更できることもあります。
また、薬の規格(〇mgなど)を変更して薬の数を減らせることもあります(例:1mg錠を4錠で処方→2mg錠を2錠で処方)。
その他、まったく飲んでいない薬がある場合は、処方自体が中止になることもあります。
ただ、薬の変更にともない、薬局での支払額がかえって高くなることもあります(例:配合剤の薬価が高い場合、など)。
相談する際には、負担額がどれくらい変わるかも確認しておきましょう。
生活習慣と服用時点の不一致で薬が飲みにくい場合
生活習慣と服用時点が一致していないために薬の飲み残しが生じてしまう場合(例:1日2食なのに1日3回毎食後の薬が処方されている、など)は、生活習慣も含めて薬の飲み方を医師・薬剤師に相談しましょう。
食事の影響を受けない薬や、飲むタイミングがそれほど重要でない薬については、用法が変更になる場合があります。
また、1回の服用量を加減して、用法を変更する(例:1日3回毎食後から1日2回朝夕食後に変更、など)という方法が採られることもあります。
そもそも薬が飲みにくい場合
「処方されている薬が飲みにくくて飲み残しが出てしまう」という場合は、剤型変更で飲みにくさが解消されることがあります(例:普通錠を口腔内崩壊錠に変更。散剤を錠剤に変更。内服薬を外用薬に変更、など)。
また、薬によっては用法用量を変更して飲む回数を減らせるものもあります(例:毎日起床時に服用する薬を週に1回起床時に服用する薬に変更、など)。
「薬が口の中に貼り付いてしまって飲みづらい」という場合は、ゼリータイプのオブラートを使うと上手に飲めるようになります。
「錠剤をシートから出しにくい」という場合は、市販の補助具を利用するのもおすすめです。
散剤や一包化した薬の分包紙、漢方薬のシートを上手に破れないという場合は、レターオープナー(封筒を開封するための道具)を使うと簡単に開けられます。
やってはいけない対処法
次は、薬を飲めない場合についやってしまいがちなNG対処法です。
薬をつぶす
薬をすり鉢やミキサーでつぶすのは、絶対にやってはいけないことの一つです。
薬を細かく砕いてしまうと吸収・代謝速度が変わり、血液中の濃度が高くなって作用や副作用が強くあらわれることがあります*5。
また、薬の溶け方が変わり、例えば腸で溶けるはずの薬が胃で溶けてしまうなどして効果が失われることもあります。
その他、薬を粉砕すると苦みや刺激臭でかえって飲みにくくなることもあります。
そのため、自己判断で薬をつぶすのは絶対に避けてください。
薬を食べ物に混ぜる
薬(特に散剤)を食べ物に混ぜるのもおすすめできません。
本人に何も知らせないまま薬を食べ物に混ぜてしまうと、介護者との信頼関係が損なわれるおそれがあります。
また、食べ物の味が変わってしまうと、食事を拒否する可能性もあります。なかには、食べ物と混ぜることで強い苦みが出る薬もあるため注意が必要です。
さらに、薬を混ぜた食べ物を残してしまった場合、薬を全量服用できないことになります。
このような点でも、薬を食べ物に混ぜるのはおすすめできません。
セルフ一包化
薬局に一包化を依頼せず、ご本人や介護者が自宅で薬をシートから取り出し、用法ごとに分けてパックする場合もあるようですが、このような「セルフ一包化」も避けるべきです。
薬は色や形が似ているものが多く、これらを判別しながら手作業で用法ごとに分けるのはとても大変です。
また、一包化できる薬剤かどうかの判断(例:吸湿性の高いもの、一緒に分包紙に入れてしまうと溶けたり着色したりする薬剤の組み合わせ、など)は、一般の方にできるものではありません。
薬の入れ間違いなどを防ぐためにも、セルフ一包化はしないでください。
残薬や薬の飲みづらさに悩んだら、薬剤師に相談を
薬の飲み残しが生じる理由・背景は、人それぞれです。年齢とともに、飲み残しの理由が変わることもあります。
また、飲み残しの対処法は、人によって適する方法が異なります。
一方で、飲み残しを減らすため、あるいは薬の飲みづらさを解消するためにやったことが、服用者の生命・身体に悪影響をおよぼすこともあります。
薬を安全に正しく服用するためにも、薬が余ってきたり飲みづらさを感じたりした場合は、調剤薬局の薬剤師に相談してみてください。
参考文献・参考サイト
*1
出所)日本調剤「ニュースリリース2014年度>PR>「処方薬の飲み残しに関する意識調査」を行いました」
https://www.nicho.co.jp/corporate/newsrelease/11546/
*2
出所)埼玉県 一般社団法人埼玉県薬剤師会「高齢者等の薬の飲み残し対策事業」
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/49791/zannyaku-houkokusho.pdf
(P.11、図9残薬が生じた理由)
*3
出所)イラストAC「イラスト素材:一包化薬入一週間内服薬管理用薬カレンダー」
https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=1152993
*4
出所)イラストAC「イラスト素材:一包化薬袋朝昼夕食前食後寝前色分け頓服も」
https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=1152972
*5
出所)公益財団法人 日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業>医療安全情報>過去の医療安全情報>2020年>No.158:徐放性製剤の粉砕投与」