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更新日:2023.01.15リハビリうまいこと「老い」と付き合う

「老い」とは何か

いつまでも若くいたい!みなさん日々、そう感じていませんか?

 

人生100年時代*1を迎え、「いかにして健康寿命を伸ばすか」「介護を受けずに過ごすことができるか」について考えている方も多いのではないでしょうか。

 

また、その若さを保つために、新たなことに挑戦する人も少なくないでしょう。

 

これは間違いなく素晴らしいことですし、健康寿命を伸ばすためのエビデンスも多く存在します。

考えてみると、気持ちの上で気分転換になりますし、他者と交流したり、社会参加することも健康寿命を伸ばすには効果的と言われています。もちろん、運動はその最重要項目です。

 

個人的には、「運動」、「栄養」、「社会参加」が若さを保つ秘訣であると考えています*2。

 

しかしながら、ポジティブな気持ちや若い主観年齢を保っていたとしても、心身の衰えは避けられないのも事実です。これが俗に言う、「老い」という現象です。

 

この避けては通れない、どうしようもない現象をどう捉え、それにどうやって立ち向かうのか。

一人一人しっかりと向き合うことが重要です。

 

ご自身の老いと向き合い、上手いこと付き合っていく手段を考える上で、この記事が少しでも参考になれば幸いです。

平均寿命と平均余命

さて、厚生労働省の調査では、2019年における我が国の平均寿命は、

男性81.4歳、女性87.45歳、健康寿命は男性で72.68歳、女性75.38歳となっています*3。

 

つまり、平均寿命と健康寿命とは男女それぞれ、約9年、約12年の差があるということになります。

 

ここでの健康寿命とは、健康上の問題で「日常生活が制限されることなく生活できる期間」*3のことですので、

この平均寿命と健康寿命の差が広がれば、日常生活に制限がある、いわゆる「不健康な期間」が長くなってしまうことを意味します。

 

つまり、我々は、この健康寿命をいかにして伸ばすか、何らかの原因で不健康になって苦しんだり、家族や他人のサポートを受けるしかない。

そういった状況に陥らないために、「いつまでも若くいたい」「病気せずに健康でいたい」という認識に置き換わっていることと思われます。

 

さらにここで押さえていただきたいのは、実は、平均寿命と平均余命は多少意味が異なるということです。

 

平均寿命というのは、「0歳の時に何歳まで生きられるか」を表した数字で、

平均余命は、「各年齢であと何年ほど生きられるか」を表した数字と言われています。

 

つまりは、「平均寿命が85歳だから、たとえ今現在30歳の人が、80歳以上生きられる」と言うことではないのです。

 

前置きが長くなりましたが、人間として生きている限り、決して避けられない、この「老い」という現象。

 

もはや、受け入れるしかございません。今回は、その適応方法について、ご紹介したいと思います。

 

老いに向き合い、さらっとかわすSOC理論

この避けられない「老い」に適応するための方法として、心理学者であるBaltes氏が提唱したのが、

高齢者の自己制御方略に関する「SOC理論」(Selective Optimization with Compensation)選択最適化補償理論*4です。

 

よくわからないですね。漢字が9文字も続いてます。

 

これは、われわれが、若い時には多くのことを目標設定し、

PDCAサイクルを数多くフル回転させながら、一つ一つの目標をクリアしていっているわけですが、年齢を重ねれば、それが徐々にうまくいかなくなる。

 

「若い時にはもっと多くのことを同時にできた」などそんな声が聞こえてきそうですが、そうはいっても無理なものは無理なので、どうしましょうか。ということです。

 

Baltes氏が言うには、

➀若い頃よりも目標を絞り込み(選択)

➁それを達成できるように自らの能力を効率的に活用し(最適化)

③さらに周囲から援助などのこれまで使っていなかった方法を利用することで、

能力の低下を補う(補償)ということです。

 

例を挙げてわかりやすくすると、

 

・目標の選択(若い頃より目標を少し低く設定する)

 例)マラソン42.195km走っていたけど、ハーフマラソンにしておこう。

・自身の能力の最適化(自分の持っている能力やできる範囲を理解して効率よく使う)

例)毎日ランニングしていたけど、週3回にしてみよう。

・補償(周りの人や環境を有効に活用する)

 例)1人で走っていたけど、妻と走ることで継続できるかな。

 

要は、できないことを無理にやろうとせず、目標を選択して、自身の能力に適応させ、サポートしてもらうことで、

「老い」に無理なく適応するという理論です。

 

もっと身近な例としては、高齢者が激しいスポーツからゲートボールなどの運動に転換することは「選択」になりますし、

出かける前に忘れ物がないかどうか、若い頃より時間をかけて確認するのは「最適化」になります。

さらにらくらくフォンを使うことは「補償」にあたるのかなと思ったりします。

 

ご理解いただけましたでしょうか。

 

最後に、個人的にすごく心があらわれ、「老い」にどう向き合っていくか。

 

自分自身の人生の参考にしたいなと思ったので、

樹木希林さんが映画「ツナグ」(東宝/2012年公開)*5で朗読して注目された、

ヘルマン・ホイヴェルス著/林幹雄編の『人生の秋に』(春秋社/2008年)の一節をご紹介して終わりにしたいと思います。

 

この世の最上のわざは何?

楽しい心で年をとり

働きたいけれども休み

しゃべりたいけれども黙り

失望しそうな時に希望し

従順に、平静におのれの十字架をになう

若者が元気いっぱいで神の道を歩むのを見つけてもねたまず

人のために働くよりも謙虚に人の世話になり

弱ってもはや人のために役立たずとも

親切で柔和であること

老いの重荷は神のたまもの

古びた心に、これで最後の磨きをかける

まことの故郷へ行くために

おのれをこの世につなぐ鎖を少しずつ

外していくのは、真にえらい仕事。

 

老いとは、どうしようもなくえらい大変な仕事なので、

無理なく(選択・最適化・補償で)、自分らしく鎖を外していくのがいいのかもしれません。

 

というところで、終わりにしたいと思います。

最後までありがとうございました。

 

参考文献・参考サイト

*1:リンダ・グラットン, and アンドリュー・スコット. LIFE SHIFT (ライフ・シフト): 100 年時代の人生戦略. 東洋経済新報社, 2016.

 

*2:阿部巧. “高齢期の運動, 栄養, 社会参加とフレイル予防.” 体力科学 70.1 (2021): 28-28.

  https://doi.org/10.7600/jspfsm.70.28

 

*3:厚生労働省 生活習慣予防のための健康情報サイト 平均寿命と健康寿命

  https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html

 

*4:Marsiske, Michael, et al. “Selective optimization with compensation: Life-span perspectives on successful human development.” (1995).

  https://psycnet.apa.org/record/1995-98961-003

 

*5 映画COM 「ツナグ」  https://eiga.com/l/hokrw 

この記事を書いた人

阿比留友樹理学療法士(Physical Therapist) 長崎県出身。専門学校を卒業後、回復期リハビリテーション病院へ入職。回復期リハ、外来リハ、訪問リハ、障害者病棟を経験。2016年、復興支援を目的に、既に単独型訪問リハステーションを運営していたロッツ株式会社に入社し、3年間訪問リハ部門の責任者として勤務。現在は、首都大学東京大学院 人間健康科学研究科修士課程に在学中。その他、認定理学療法士(脳卒中・地域理学療法)、認定訪問療法士を取得。介護支援専門員の資格を持つ。

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